大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)21271号 判決

原告 永代信用組合

右代表者代表理事 山屋幸雄

右訴訟代理人弁護士 西村真人

同 小澤治夫

被告 A

同 B

同 C

主文

一  被告斉藤万里子は、原告に対し、金八二万九〇三二円を支払え。

二  被告長富英男は、原告に対し、金六八万六六四五円を支払え。

三  被告清水光男は、原告に対し、金九二万八五一六円を支払え。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告斉藤万里子(以下「被告斉藤」という。)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告長富英男(以下「被告長富」という。)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

3  被告清水光男(以下「被告清水」という。)

被告清水は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書も提出せず、請求の趣旨に対する答弁をしない。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告斉藤に対する請求について

(一) 原田勝至(以下「原田」という。)は、被告斉藤に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の一〇一号室を、期間の定めなく、賃料一か月五万円で賃貸した。

(二) 原告は、本件建物の所有者である原田との間で、平成元年七月二六日、本件建物について、極度額を二〇〇〇万円、債権の範囲を信用組合取引、手形債権、小切手債権及び保証委託取引、債務者を株式会社原田商店とする根抵当権を設定する契約を締結し(以下これを「本件根抵当権」という。)、同年八月三日、右契約に基づく根抵当権設定登記をした。

(三) 東京地方裁判所は、平成一〇年八月五日、原告の本件根抵当権に基づく物上代位により、債務者を原田、第三債務者を被告らとし、別紙差押債権目録記載一ないし三の賃料債権を差し押さえる旨の命令(同庁平成一〇年(ナ)第一四二一号。以下「本件差押命令」又は「本件差押え」という。)を発し、右命令は、同月一四日原田に送達された。

(四) 本件差押命令は、同月八日、被告斉藤に送達された。

2  被告長富に対する請求について

(一)(1) 原田は、被告長富に対し、本件建物の三〇一号室を、期間の定めなく、賃料一か月四万九〇〇〇円で賃貸した。

(2) 原田と被告長富は、右賃貸借の賃料額を、平成一一年一月分以降一か月三万九〇〇〇円に変更する旨合意した。

(二) 請求原因1(二)に同じ

(三) 請求原因1(三)に同じ

(四) 本件債権差押命令は、同月七日、被告長富に送達された。

3  被告清水光男に対する請求について

(一) 原田は、被告清水に対し、本件建物の三〇二号室を、期間の定めなく、賃料一か月五万六〇〇〇円で賃貸した。

(二) 請求原因1(二)に同じ

(三) 請求原因1(三)に同じ

(四) 右債権差押命令は、同月八日、被告清水に送達された。

4  よつて、原告は、

(一) 被告斉藤に対し、原田と被告斉藤との間の賃貸借契約に基づく原田の被告斉藤に対する賃料債権であって、本件差押命令の被告斉藤への送達日である平成一〇年八月八日以降に支払期が到来した平成一〇年九月分から平成一一年一二月分まで及び平成一二年一月一日から同月一八日までの日割分の賃料合計八二万九〇三二円につき、

(二) 被告長富に対し、原田と被告長富との間の賃貸借契約に基づく原田の被告長富に対する賃料債権であって、本件差押命令の被告長富への送達日である平成一〇年八月七日以降に支払期が到来した平成一〇年九月分から平成一一年一二月分まで及び平成一二年一月一日から同月一八日までの日割分の賃料合計六八万六六四五円につき、

(三) 被告清水に対し、原田と被告清水との間の賃貸借契約に基づく原田の被告清水に対する賃料債権であって、本件差押命令の被告清水への送達日である平成一〇年八月八日以降に支払期が到来した平成一〇年九月分から平成一一年一二月分まで及び平成一二年一月一日から同月一八日までの日割分の賃料合計九二万八五一六円につき、

それぞれ、根抵当権に基づく物上代位により差押えをしたことによる取立権に基づき、各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告斉藤

(一) 請求原因1(一)は認める。

(二) 同(二)は不知。

(三) 同(三)及び(四)は明らかに争わない。

2  被告長富

(一) 請求原因2(一)(1)、(2)は認める。

(二) 同(二)は不知。

(三) 同(三)及び(四)は明らかに争わない。

三  抗弁

1  相殺(請求原因1に対し)

(一) 被告斉藤は、原田に対し、弁済期の定めなく、利息付きで四〇〇万円を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。

(二) 被告斉藤と原田は、平成九年四月ころ、両名間の賃貸借契約上の各賃料支払期に、支払期の到来した賃料債権と本件消費貸借契約に基づく利息債権とを同賃料額の範囲で相殺する旨合意した(以下「本件相殺予約」という。)。

2  債権消滅(請求原因2に対し)

(一) 原田は、平成一〇年八月ころ、被告斉藤に対し、原田と被告長富との間の賃貸借契約に基づく、被告長富に対する同年八月分以降の賃料債権を譲渡した。

(二) 被告長富は、右債権譲渡がなされた後、被告斉藤に対し、同賃料債務の支払を行ってきた。

四  抗弁に対する原告の認否及び主張

1  認否

抗弁1(一)、(二)、2(一)、(二)はいずれも明らかに争わない。

2  主張

(一) 抗弁1について

仮に被告斉藤が相殺予約に基づく相殺を主張しているとしても、本件根抵当権は既に登記されているため、本件根抵当権の効力が物上代位の目的債権(賃料債権)について及ぶことは公示されているといえるから、原告が行った物上代位に基づく本件差押えは、右相殺予約に基づく相殺に優先すると解すべきである。かように解しても、第三債務者の利益を不当に害するとはいえない。仮に、右相殺予約に基づく相殺が物上代位に優先すると解すれば、抵当権設定者に対し債権を有する第三債務者は、抵当権者による差押前に相殺予約の合意をすることによって容易に抵当権者からの物上代位権の行使を免れることになり、かえって抵当権者の利益を不当に害することとなる。民法三〇四条一項ただし書の「払渡又ハ引渡」には、相殺予約に基づく相殺は含まれないと解すべきである(東京地裁平成一〇年三月一九日判決参照)。

(二) 抗弁2について

仮に、右債権譲渡につき対抗要件が具備されていたとしても、本件根抵当権は右債権譲渡より前の平成元年八月三日に主登記がされており、また、民法三〇四条一項ただし書の「払渡又ハ引渡」に債権譲渡は含まれないと解されるから、根抵当権者たる原告は、右債権譲渡の対抗要件が備えられた後でも被告長富に対する賃料債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる(最高裁平成一〇年一月三〇日判決参照)。

理由

一  請求原因

1(一)  被告斉藤及び同長富

請求原因1(一)の事実は原告と被告斉藤との間において、同2(一)(1)、(2)の各事実は原告と被告長富との間において、それぞれ争いがない。

(二)  甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1(二)(同2(二)も同じ)の事実(本件根抵当権の設定等)を認めることができる。

(三)  被告斉藤は請求原因1(三)、(四)の各事実を、被告長富は同2(三)、(四)の各事実を、いずれも明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

2  被告清水

(一)  同被告は、原告の請求原因事実を争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。

(二)  したがって、原告は、被告清水から、平成一〇年九月分から平成一一年一二月分まで及び平成一二年一月一日から同月一八日までの日割分の賃料合計九二万八五一六円を取り立てることができる。

二  抗弁

1  被告斉藤に対する請求について

(一)  前記一のとおり、原告は、原田の被告斉藤に対する賃料債権で平成一〇年八月八日以降支払期が到来するものにつき、根抵当権に基づく物上代位による差押命令を得たものであるところ、これに対し被告斉藤は、原田に対する貸金債権を有していたところ、原田との間で平成九年四月ころ、被告斉藤の賃料の各支払期に支払期の到来した当該賃料債務と右貸金債権とを相殺する旨の合意(本件相殺予約)をした旨の抗弁を主張する。

(二)  そこで、平成一〇年八月八日以降、被告斉藤の各賃料債務の発生時において、本件根抵当権に基づく物上代位による本件差押命令と本件相殺予約のいずれが優先することになるのかについて検討するに、民法三七二条で準用される同法三〇四条一項が抵当権者の物上代位権行使において払渡し又は引渡し前の差押えを要求する趣旨は、第三債務者は右差押えの命令送達を受けるまでは右債権の債権者たる抵当権設定者に弁済をすれば足りるとすることによって、抵当権の効力が右債権にも及ぶために第三債務者が二重払の危険を負うことになることを防止する点にあるところ(最高裁第二小法廷平成一〇年一月三〇日判決・民集五二巻一号一頁参照)、かかる趣旨からすれば、相殺は同法三〇四条一項ただし書の「払渡又ハ引渡」には含まれないものと解するのが相当である。また、仮に相殺が差押えに優先すると解すれば、抵当権設定者に対して債権を有する者は、当該抵当物件を賃借して、抵当権者による差押前に賃料債務との相殺予約の合意をすることによって容易に抵当権者からの物上代位権の行使を免れて自己の債権の満足を得ることができることになり、抵当権者の利益を不当に害する結果となり、妥当でない。

そうすると、相殺は三〇四条一項ただし書にいう「払渡又ハ引渡」には当たらず、同一債権について抵当権に基づく物上代位による差押えと相殺が同時に効力を生じた場合、差押えが相殺に優先することになる。

(三)  したがって、本件では、平成一〇年八月八日以降支払期が到来する原田の被告斉藤に対する賃料債権につき、本件差押命令が本件相殺予約による相殺に優先すると解されるから、原田に対し貸付けをし、同人との間で賃料債務と右貸付金債権との相殺予約をしたとの被告斉藤の抗弁はその主張自体が失当であって、原告は被告斉藤から、平成一〇年九月分から平成一一年一二月分まで及び平成一二年一月一日から同月一八日までの日割分の賃料合計八二万九〇三二円を取り立てることができるというべきである。

2  被告長富に対する請求について

(一)  前記一のとおり、原告は、原田の被告長富に対する賃料債権で平成一〇年八月七日以降支払期が到来するものにつき、本件差押命令を得ており、また、本件根抵当権については平成元年八月三日にその設定登記がされているものであるところ、原田は被告斉藤に対し、平成一〇年八月ころ、同年八月分以降の被告長富に対する賃料債権を一括譲渡し、以後被告長富は被告斉藤に対し右賃料債務を支払っている旨の抗弁を主張している。

(二)  右認定事実を前提として判断するに、民法三〇四条一項ただし書の「払渡又ハ引渡」に債権譲渡は含まれず、抵当権者は物上代位の目的債権が譲渡された後においても自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することが認められ(前記最高裁平成一〇年一月三〇日判決参照)、この場合抵当権の効力が目的債権に及ぶことの公示は抵当権設定登記によりされることから、抵当権者は右登記をすることにより、右登記より先に目的債権が譲渡されかつその譲渡につき対第三者対抗要件が具備された場合でない限り、目的債権の譲受人に物上代位を対抗できることになるので、本件において、原告は、根抵当権の登記を具備したことにより賃料債権を譲り受けた被告斉藤に対し物上代位を対抗することができ、かかる原告の被告斉藤に対する優先的地位は右賃料債権の債務者である被告長富にもその効力を及ぼすものである。よって原告は、被告長富の被告斉藤に対する賃料支払が無効であり、被告長富がなお原告の物上代位権の及ぶ賃料債務を負っているものとして、右賃料債務を差し押さえた上、被告長富からこれを取り立てることができることになる。

(三)  したがって、原告は、被告長富から、平成一〇年九月分から平成一一年一二月分まで及び平成一二年一月一日から同月一八日までの日割分の賃料合計六八万六六四五円を取り立てることができる。

三  よって、本訴各請求はいずれも理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋譲)

物件目録<省略>

差押債権目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!